Act1.少女達は世界を超えて。


死んだ―――?
いや、違う。まだこうして考えられるなら、死んでない。
じゃあどこだよ、ここ。青い波の模様に合わせて、光が散ってる。
水中?でも息、出来るし……。まさかえら呼吸会得した?
嫌だな――…人じゃないじゃん、それ…。

バッシャ――ン。
「げっ、ごほごほっ!!?」
ちっとも可愛らしくない咳と、水のせいで皆起きた。因みに咳をしたのは夏樹だった。
「何処?…う、海?砂浜?」
先刻から疑問符だらけのサカキ。
「サカキ先輩、何をしたんですか?」
真岬が波のせいで濡れた眼鏡を外し、レンズを拭きつつ訊く。
それは、他の3人の訊きたいことでもあった。
「私も知らないって…。効力分かんないって言ったでしょ?」
サカキも、それを知る由は無いのだが。
「なんでもない…じゃ、収まらないねぇ。どーしよっか?」
蒼がサカキに指示を仰いだ。
「とりあえず、此処が何処かってことが分からないと…。街とか無いかな…市役所とか…」
「少なくとも、K市じゃないよね…N浜じゃないしさ…」
ハナが周りを見回して意見を述べた。
「オレの知ってるトコじゃないことは確かだな」
夏樹は肩を竦めた。言っておくが、男ではない。口調がそうなだけだ。

「………あの、あれって何ですか?」
真岬の問いに、皆が振り向く。そして全員、固まった。
“あれ”は人外のモノだった。人外の動き、異形のモノが人を襲っているのだった。
視力が無かったとしても、事態は察することが出来た。
肉と刃の音、雄叫び、断末魔の叫び―――
今まで、いや、普通に一生を終えれば聞く筈のない音や声。
あの物体が、恐ろしかった。海水でボロボロで、12月にしては暑い日差しの下でも、ブレザーを脱ぐ気にはなれなかった。
見苦しかったとしても、“あれ”を目にして薄手でいようなどと思う者は居ないだろう、と5人は思った。
「…こっちに来てない?“あれ”…」
ハナと同じことを、他の4人も思っていた。顔が一様に蒼白だった。

「ちょっと待て、まさかここ…ファンタジー……の世界じゃないのか?」
怪物を見たからには、そう言うのが自然である。
「武器も何も持ってないよ〜、どーしよー」
「それが困っている時の台詞か!?さっきまで持ってた試験管も無いし、素手か!?素手なのか!?」
1番パニックに陥っていると思われる夏樹を落ちつかせる役目を果たしたのはサカキだった。
「素手じゃ無理無理。私はBOX持ってるけど…」
「なんつー物騒な物持ち歩いてんだよ!!」
…落ちつかせるを通り越してキレさせてしまっているが。
「無いよりマシじゃん、使えそうなものある?」
「えーと、砒素と水銀と青酸カリと濃硫酸とストリキニーネと…」
「猛毒だらけじゃねーか!?この犯罪者!!歩く毒!!」
「あら?」
「あらじゃね――!!!」
サカキと夏樹(主に夏樹)が騒いでる内に怪物は近づいてくる。
「そ…そろそろヤバいんとちゃうん!?」
蒼が2人を止めるべく叫んだ。




・言い訳みたいな後書き・
最後の榊と夏樹のやりとり(「あら?」「あらじゃね――!!」)はしょっちゅうあるやりとりの一つです。



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