Act3.信じられない言い伝え


「ありがちな展開だなオイ…」
夏樹は呆れていた。
「どういう理由で、私達をそう呼ぶんですか?」
サカキが尋ねる。
「あぁ、そうでしたね…。ここでは何ですし、私の家にでも…」
男の提案に彼女達は暫く顔を見合わせていたが、やがて頷きあうと、男についていった。


「まずは…古よりの言い伝えを。
―――“民の敵、忌人ハ300年ノ時ガ経ツ度、民ノ地ニ現レ、民ノ地ヲ壊シ、民ノ血ヲ吸イ生キル。
シカシ闇ノ絶望アラバ光ノ希望モアリ、
神ハ民ガ苦シマヌヨウ、異ナル界カラ五ツノ人ヲ此ノ地ニ降ロサレル。
一人ハ剣ヲ操リ、
一人ハ杖デ魔ノ法ヲ自在ニ使ウ。
一人ハ槌ヲ振ルイ、
一人ハ薬ヲ闘イニ用イル。
ソシテ一人ハ食ノ知ヲ以テ敵ニ挑マン。
五ツノ希望ハ役目ヲ終エルト己ノ地ニ還ラレ、民ニハマタ平穏ガ訪レル”――――」
(なぁっが〜〜〜…)
蒼が小声で呟き。
(役目を終えれば帰れるらしいねぇ)
ハナが声を明るくして言った。
「300年前の人々はこの世界に点在している寺院に寄りつつ、闇本山へ向かったらしいですよ。
寺院はここにも1つ―――“始まりの寺院”があります。
まずはそこへ向かって行けば良いと思いますが」
「…はぁ。それで、寺院は全部でいくつ…」
「5つです。“始まり”“継がれ”“間”“転じり”“終わり”があります。」
はっきりと答える男には見えない、聞こえないように、
(道のり長〜〜〜…。当分帰れそーにないな…)
と皆が思ったのは言うまでもない。


次の日―――
五人は漁村の人々に案内されて、“始まりの寺院”に来ていた。
昨日、散々行ってくれ、と人々に土下座で頼まれたからだ。
「あのさぁ」
夏樹が、口を開く。
「オレら、あの言い伝えのどの部分に入るんだろーなー」
「さぁ…。でも、それぞれ剣士と魔法使いと……他はさっぱり分かんないー。」
サカキが夏樹の隣に並ぶ。
「薬を使う人っていうのは薬剤師みたいなものじゃないんでしょうか…」
真岬が思い出したように口に出す。
「あー、なるほどね〜」
蒼が周りを見回すのをやめて真岬を見る。
ハナは木々の間から時折見える白壁を眺めていた。
寺院の周りに忌人は近づけないらしく、木々の緑も枯れてはおらず、忌人み侵食された跡もない。
小鳥は囀っているし、ここは平和そのものだった。
ややあって、小道から寺院が見えてくる。
白壁、白い屋根。その寺院は全てが白かった。
白と、影の灰色のみの不思議な建物。
深い緑と茶、黄土の自然の中で、それはとても浮いていた。
「では、我々はここで」
「「「「「有り難う御座いましたー」」」」」
村の人々の背に礼を言う。
「………なんか、入りづれーなぁ…」
寺院に向き直って夏樹が呟く。
「うん。でも入んないことには帰ることも出来ないし」
ハナも相変わらず寺院を観察しつつ言った。
「だったら行くしかないやろ!」
「そうですよね!」
そう言って蒼と真岬は先を歩いていく。
「面倒臭い…」
サカキも1人ぼやいたが、仕方なく続いていった。




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